日本公認会計士協会のHPには「公認会計士業務とAI」というページがあります。要約すると、公認会計士の仕事はAIで代替できないと書いてあります。極論はそうだと思いますけど、現時点での監査法人の実務を見ればなぜ公認会計士やっているのかわからない、言い換えれば誰でもできる仕事がたくさんあります。
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公認会計士ってこんな仕事してるの…
私のときは(今もかもしれませんが)、新人の公認会計士試験合格者がコピー取りやスキャンをやっていました。運用評価手続について、目視での証憑チェックも公認会計士試験合格者が行います。1日7時間、ただ左の紙と右の紙の数字が同じかを見続けました。いずれも公認会計士である必要がありません。アシスタントもいたのですが、彼らも忙しいので仕方なく自分たちでやっていました。
AIの導入
今後の流れとして、ここらへんを専門的に行うチームが出てきます。最初は人間が行い、段々と自動処理に移行していきます。ここに画像認識などが入ってくることが、AIの活用の簡単な例です。しかし、AI導入は一筋縄にはいきません。その理由を考えていきましょう。
AI活用を阻害する要因
紙の存在
大企業相手に会計監査を行っていると、証憑を紙でもらうことが多いです。その理由としては、
- クライアントがそもそも紙でしか持っていない場合
- クライアントは電子データで持っているが紙でしかシステム外に出力できない場合
の2パターンがあると思います。
①がなかなかに驚きですが、稟議の内部統制として、紙を使っているところがたくさんあります。ある部署が稟議書類を作成し、別部署に回付、受け取った部署は印鑑を押して次の部署に回付、次の部署も印鑑を押して次の部署へ…というプロセスです。すると印鑑ベースなので保存も紙です。その紙のコピーを監査人が受け取るので、コピーを経てぼやけた紙と永遠に格闘することになります。
②も初めは驚きました。例えば会社の大切な情報が入ったシステムから簡単に電子データが抜け出せたら困ります。またシステムが古いなどの理由もあり、そのシステムからは予め決められたシステムに対してしかデータを流せず、紙でしか出力できないパターンがあります。システムからのデータ出力が不可なのでスクリーンショットを貰うこともあります。
会社によるデータ形式の差が大きい
会社のシステム画面は会社によって、システムによって大きく異なります。そしてその画像の中で使いたい場所も異なりますから、AIの開発も一筋縄では行かないと思います。AIを開発しても、一つのクライアントのシステム専用、みたいになりかねないのです。これでは開発コストを回収できません。
会計監査は書類チェックと質問の繰り返し
会計監査は泥臭いです。運用評価手続でクライアントの紙書類をもらったとしたら、印鑑の存在を目視でチェック、承認者の権限を社内書類と見比べてチェック、少しでも不明なことがあればクライアントに質問、また少しチェックして、質問、それによって新たな書類をゲットして、チェックして質問…というように、質問と手戻りばかりなので、そこまでAIってのはなかなか厳しいと感じています。
大量にまとめて処理、ということがAIは得意なんですが、そういった監査局面が少ないんですよね。
AIの開発と人間の手作業、どっちが安い?
これはひどい話と思わず聞いてほしいです。AIの開発には現時点ではそれなりのコストを必要とします。ここで一つの疑問が生まれます。
安い人材を雇って手作業でやらせるのと、AI開発のどっちが安いのでしょうか
残念ながら安い人材を雇った方がコストが削減される場合があります。
AIによって置き換えられるのは中間層の人材と言われます。本当に高度な人材はAIでは置き換えられず、逆に低賃金な労働者の仕事はそれに対応するAIを開発するより低賃金労働者にやらせたほうが安いから置き換えられない。これが不都合な真実です。
AI×会計監査 が見込まれる領域
データ分析
リスク評価手続や増減分析などでは補助的に機械学習が用いられていくと思います。なぜなら、企業及び企業環境理解の方法って、どの会社でも似通っているからです。
簡単な例をあげると、例えば年間10万件の取引がある会社だったら、その取引の利益率の平均と標準偏差を出して回帰分析をしてみます。それで閾値を超えたものがリストアップされてきて、それを監査人が個別に精査していくわけです。これは簡単な例ですが、もっと複雑なアルゴリズムを使用するとAIって世間で言われるようになっていくのだろうと思います。
じゃあ現時点でどうなの?
今はルールベースの判定があると思います。予め「こんな取引はリスクがある」っていうものを識別するルールがプログラムされています。例えば、取引金額、取引相手、摘要が完全に同じ取引の仕訳が2つ入っていたら怪しくないですか?何かのミスで同じ取引が重複して会計システムに入力されている可能性があるわけです。
ルールベースのプログラムはそういった「怪しい可能性がある」取引をすべてリストアップしてくれます。しかし、
- 人間が考えたルールから漏れてしまったものはリストアップされない
- 人間が考えた不完全なルールに合致しただけで大量にリストアップされてしまう
という問題点があります。
例えば、金額が10,999,999円の取引は、入力者がキーボードを押し間違えた可能性があるかもしれません。それなら「0以外の数字が連続で5個続いたら怪しい」としてリストアップしたらいいのではないかと考えます。すると10,999,099は不自然な気もしますが、ルールからは漏れているのでリストアップされないわけです。
こういうところの精度が機械学習によって上がっていくだろうと思います。
画像認識による紙証憑のデータ化
先程、紙の存在がAIの導入を阻害していると言いました。そうです、会社によって書類の形式が違ってAIの導入が阻害されていると思います。しかし、画像認識AIの開発コストはさがってきますから、どこかのタイミングで画像認識AIが導入されるときが来ます。最初は、人間が画像認識をするけれど、補助的にAIを使います。まずはAIにやらせて、全て人間がレビューし、間違ったところを修正して品質を担保します。そこから、徐々に人間の介入が不要なほど品質が向上していくでしょう。
理想:監査意見の形成?
もし、AIが監査判断もできるようになったらすごいことではないでしょうか?
適正意見の基準って、経験が必要と言いつつも、業務執行社員の頭の中にはそれなりのロジックがあるはずです。それをすべてコピーすれば、監査意見の形成も可能でしょう。そうじゃなくても、監査調書などを読み込ませて、どの監査意見が出る確率がどれくらいか、などを計算できるようになっても面白いですね。
一方で、私の意見としては、パートナーによって監査品質にバラツキがあります。監査法人はもともと、「先生」がいて、そのパートナーごとにチームを作って業務をしていました。それが合併を繰り返し、今のBIG4に集約されていっています。その名残りもあり、また職業的専門家としての判断に基づく業務であることから、各業務執行社員にも一定の裁量があります。これは法人内で監査品質に差があるということになりかねません。監査品質のバラツキを抑えるという視点では、AIで一元的にやったほうがいいような気もしなくはないです。
Part.2に続きます

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[…] 監査法人大手4社がAIをはじめとする各種テクノロジーの利活用にしのぎを削っていることは当サイトでもすでに取り上げています。また公認会計士がどのようにAIと取り組むべきかに関する記事も書いています。 […]
[…] https://media.itkaikei.com/2019/02/09/cpa-ai/ […]