会計

公認会計士はどのようにAIを活用するのか? – Part.2

これは「公認会計士はどのようにAIを活用するのか?」という連載のPart.2です。Part.1は下記から読めます。

公認会計士はどのようにAIを活用するのか?- Part.1日本公認会計士協会のHPには、公認会計士の仕事はAIで代替できないと書いてあります。極論はそうだと思いますけど、現時点での監査法人の実務を見ればなぜ公認会計士やっているのかわからない、言い換えれば誰でもできる仕事がたくさんあります。公認会計士がどうやってAI(人工知能)やRPA(自動化)を活用するのか、課題とともに考察します。...

会計監査のどこをAIで置き換えるのか

会計監査に関わるのは公認会計士だけではありません。IT専門家、金融工学の専門家、アシスタントなども関与します。これらの業務には、会計上の判断が伴わないものがあります。そこで監査補助者としてのAIと、公認会計士としてのAIに分けて考えてみます。

監査補助者としてのAI

監査補助者が行う、会計上の判断を伴わない業務としては、クライアントからもらったAという書類と、外部から入手したBという証拠が一致しているか確かめて、一致しているかいないかを公認会計士に報告する、といった業務が考えられます。このような判断を伴わない業務については、AIが入り込む余地があります。現状として、これらの業務を公認会計士が行う場面も多く、公認会計士ではないアシスタントなどに移管しようとしていますが、ここをさらに一歩推し進めてAIに行わせることができるようになります。

やりたいことはシンプルです。AIの処理が失敗しているか、成功しているかも結果を見れば明白です。ここを実験的にAIにやらせ、人間が目視でレビュー、エラーを報告し、AIを修正、というループを回していけば良いでしょう。人間が行ってもヒューマンエラーがあり、ダブルチェックをしています。つまり、2人関与しているんです。そこで1人をAIで置き換え、1人がレビュー、というようにすれば、1人削減できたという点でAIの導入がとりあえず成功と言えるでしょう。そこからさらに精度を高めて、レビューもAIが行えるようになる時代も来ると思います。

公認会計士としてのAI

会計監査業務において、会計上の判断を行えるようなAIの導入は直ちに進むとは思っていません。順を追って考えていきましょう。

会計監査人として、会計監査を成功させるために最も重要なことは何でしょうか?

会計監査の仕事って、クライアントの財務諸表が、投資家の意思決定を誤らせる虚偽表示がないことを、それなりの確からしさを持って証明する仕事ですよね。

その心証は、心の中にあればいいのでしょうか?

そんなわけなく、監査調書として記録に残します。監査調書をファイリング(確定させる)するためには、上位者のレビュー、パートナーレビュー、審査担当者レビューが必要です。そしてファイリングされた監査調書は、金融庁の公認会計士・監査審査会の検査や、日本公認会計士協会の品質管理レビューの検査対象ジョブにあたったときに、その適切性についてチェックされます。そのときに、パートナーは監査調書を提示し、その判断が正しいことをアピールしなければなりません。

ここで、最後の問いです。

あなたはAIが行った判断が正しいことを、どうやって証明しますか?

これが本質的であり、ここがクリアされない限り会計監査へのAIの導入は不可能です。

自分が業務執行社員になったと想像してください。自分が監査意見に責任を持ち、金融庁の検査にあたった場合は自分の判断を説明しなければなりません。そのときに、監査調書の意見形成の根拠が、「AIが言っていたから」だけでは困ります。そのAIがなぜ信頼できるかを評価し、監査調書として残さなければなりません。それを書くことはできるのでしょうか?

おそらくですが、AIの特殊なロジックを使った場合、公認会計士などの文系にわかるように書くのが困難です。AIのことは数学に詳しく、かつAIにも詳しい専門家にしかわからなくなります。それを信頼して監査意見を形成するということは場合によっては大きなリスクです。自分が管理できない、理解できないものに基づいた監査証拠で監査意見を形成したい業務執行社員はあまりいないでしょう。自分が責任者なら、すべて自分で理解したいと思う人が多いのではないでしょうか。少なくとも、もし私が業務執行社員だったら、得体の知れないAIの判断に従うことはちょっと怖いです。

そうすると、公認会計士が文系である限り、他業種よりAIの導入が遅れるのは必至です。

AIを信頼して監査意見を出すことはできるのか

現在、内部統制の運用評価手続きを行うとき、どうやってサンプル数を決めていますか?おそらくテーブルやツールを使って決めていて、内部のロジックをよく理解していない会計士もいます。でも、それに従えば問題ないということは常識になっています。AIも同じようになっていくのが理想です。中身はAIの専門家が保証しているから、これは信頼して良いものだということが、会計監査業界で常識になる未来です。

公認会計士としてのAIをもう少し限定して、ある勘定科目の期中取引一覧を読み込ませると、不正の疑いがある取引をピックアップしてくれるAIを考えていきましょう。公認会計士のリスク評価の判断の一部を代替してくれるAIです。これをこの記事内では便宜的に「公認会計士AI」と呼びます。リスクアプローチのために、どの取引にリスクが高いかを評価するAIであり、これも会計監査のための判断を行うAIと言えます。

そして、監査補助者としてのAIも、もう少し具体的に考えてみます。クライアントの書類Aと、外部証憑B(紙)の画像を認識して、差異がないかを確かめて、○か✕かを返すAIをここでは便宜的に「監査補助AI」と呼ぶことにしましょう。

監査補助AIと公認会計士AIの違いって何?

この表を見てください。

監査補助AI 公認会計士AI
どうやって答えを出したか
何をしたいのか
何が正しいのか

監査補助AI

監査補助AIの場合、画像を見比べて差異がないかを確かめる、ということがやりたいです。それって、どうやってAIが処理したのかはわからなくても、何をしたいのか、何が正しいのか、が誰にでも理解できます。人間が見ればすぐにわかるものを、AIにやらせているからです。これは電卓を使っているのと同じです。電卓内部の構造はわからないけど、自分が入れた式を計算したということがわかり、何が正しいのかも自分で計算し直すことができます。

監査補助AIの精度が上がっていけば、当たり前のようにみんなが受け入れるようになるでしょう。なぜなら、何をしてくれているのかが明白だからです。Excelの計算は正しく、Excelのソフトウェアにバグはないと、無意識のうちに信じています。それと同じ状況になるということです。

公認会計士AI

一方で、公認会計士AIの場合、リスクが高い取引をリストアップしてほしいとは言うものの、何のリスクが高いのかは明確な判断基準がありません。AIに大量に学習させることで、AIが独自のパターンを見つけ出し、リストアップしていくことになるかと思います。これはAIに職業的専門家としての判断を要求する、ということです。そうなると、これをどうやって監査調書に残すかが問題になります。

このリスク評価のAIが独自のモデルであれば、モデルの内容や正当性、パラメータを説明しなければなりません。これはAIの専門家でなければ理解できないような、極めて高度なものになるでしょう。これを金融庁や日本公認会計士協会に伝え、納得してもらうのは困難かと思います。

監査補助AIの導入後に、公認会計士AIが導入される

上述の理由から、監査補助AIは人間のレビューと組み合わせることで、すでに実戦投入されている部分があります。監査補助AIが行う業務では、人間であれば何が正しいのかを理解できる、という前提がありました。そこで、何かあっても人間が修正することにすれば、AIを100%信頼する必要がないので、すぐに実戦投入することが可能なのです。

一方で、公認会計士AIは違いました。何が正しいのか、人間にもよくわからないのです。それに、職業的専門家としての判断の領域ですから、複数の会計判断が認められるケースもあります。ここで重視されるのは、筋を通した論理で自分の判断を説明できるのかということです。つまり、不正の確率が何%かといった結果ではなく、判断とその結論に至った過程の説明に主眼が置かれます。

この実現には5年以上の時間がかかるのではないかと思います。理由として、公認会計士の給与も著しく高いわけではないので、そんなに急いでAIを開発する必要がありません。もっと世の中の役に立つAIがたくさん作れるので、そっちが先に作られていくでしょう。

これはリスク評価手続きの一部を代替するAIについて書いています。監査意見の判断まで行うAIはこれよりずっと先になるでしょう。

AIへのスイッチング・コスト

何かを乗り換えるときは、スイッチング・コストが発生します。ある企業が古いシステムを、新しいシステムに乗り換えるとき、以前より少し効率的になる程度ではシステムを乗り換えるに至らないと思うんですよね。以前より、大幅に効率的になるとわかってから導入します。すると、AIがいままでより大幅に効率的にならないと、トラブルのリスクを背負ってまで導入はされない、と考えられます。これもAI導入が遅れる一因でしょう。

おわりに:公認会計士としてどこに注力すべきか

ここまで、監査補助者の業務はAIに置き換えられ、公認会計士としての判断がAIに置き換えられるのは遅いと書きました。だったら直線的に、公認会計士としての高度な判断の部分で勝負すべき、ということになります。

しかし、それだけだとつまらないので、いくつか補足します

  • 今後はゼネラリストよりスペシャリストです。会計もAIもちょっと知ってますよ、みたいな中途半端なスタンスでは価値が生まれにくいです。
  • AIと聞くとプログラミングを思い浮かべる方も多いと思いますが、ちょっとしたプログラミングとAIとでは大きな隔たりがあります。プログラミングはITの世界ですが、AIはほとんど数学的なモデルの世界です。
  • 求められるものは業界特有の知識、本に書いていない知識、業界人との人脈、その人脈から得られる情報です

これをもとに、公認会計士として一つの分野に絞って、その分野で1位を目指すのが良いと思います。この記事をここまで読んでいる方は、きっと最新テクノロジーにも敏感で、リサーチ力もあります。ポテンシャルはありますから、分野を間違えなければその道の第一人者になれるでしょう。皆様のさらなるご活躍を祈念しつつ、このあたりで筆を置かせていただきます。

https://media.itkaikei.com/2019/04/29/book-udemy-programming-school/

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